【心霊其の二】マスコット
母は霊感の強い人だった。
ある日、私が母の元へ遊びに行くと、いつもより念入りに線香が焚かれていた。
何か不幸でもあったのかと尋ねると彼女は溜息をついて話し始めた。
「この前、友達が家に遊びに来たんだけど…」
来る途中で交通事故現場に遭遇したのだという。
その友人が気にしている風だったので、母は玄関先で清め塩をまいたそうだ。
「まあ、そういうのって精神面も関係するから」
気にしすぎると余計なものまで引っ張ってしまう。
塩を片付けて「これで大丈夫」と母が言うと友人も安心したようで、しばらく他愛もない話に花を咲かせて帰っていった。
でもね、と母は重々しく息を吐き出す。

「本当に連れてきちゃってたみたい」

最初は寝苦しくて目が覚めただけだと思った。
けれど、寝返りをうとうとしてすぐに異変に気付く。
胸の辺りに布団ではない重みを感じ、指の一本も動かすことが出来ない。
頭の端で金縛りにあっているんだと実感し、全身に冷たいものが広がった。
もう一度眠ってしまおう、そう考えて出来るだけ体を緊張させないよう細く長く呼吸を逃がす。
何度か繰り返している内に、視界の端でチラチラと何かが動いていた。
反射的に視線だけをそちらに向ける。
いつもの自分の部屋。
部屋の電気の紐についたマスコットが揺れている以外は静かな部屋だった。
風もないのに。
ギクリとして、視線を外せなくなる。
目が闇に慣れると、揺れ方の不自然さが強調されていく。それは、まるで誰かが手で遊んでいるような不自然な動きで揺れていた。
母はきつく目を閉じる。
赤ん坊の笑い声がした。

次に目を覚ましたのは太陽がすっかり昇りきった頃だった。
泥のように重い体を引きずり、カーテンを開ける。
それから、線香を焚こうとしてハッとした。
部屋の四隅に置いてある盛り塩が一晩で全て溶けていた。
湿度の高い夏にだって、こんな事は無かったのに…。
母は先程まで寝ていたベッドを振り返る。
ベッドの上にある出窓に盛り塩を置き忘れていた。

「そこから入ってきたのね」
まるで犬猫でも入ってきたように言ってのける。
『こういう現象』は、気に病みすぎると疲れるから、気持ちの切り替えは早い方が良いのだそうだ。
電気の紐に括り付けられたマスコットを見上げる。
吹き込んだ風で一度だけ小さく揺れた。(風月)
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